カタログの主要諸元表を見比べていて、ふと気づきませんでしたか?
「あれ、RFと幌、ギア比が同じところと違うところがあるぞ?」と。
特に、これからNDロードスターを購入しようと真剣に検討されているあなたにとって、この数値の違いは単なるデータの羅列ではありません。それは、マツダのエンジニアたちが意図した「走りの世界観」そのものだからです。
「MTは同じギア比に見えるけど、本当に同じ走りなのか?」
「ATの減速比が違うのはなぜ? どっちが自分に合っているの?」
そんな疑問を抱えたまま、感覚的な試乗レビューを読んでも、いまひとつ納得できない。そんなもどかしさを感じてはいませんか?
この記事では、カタログの数値だけでは見えてこない「物理と数学」の視点から、RFと幌のギア比の違いを完全に解明します。タイヤ外径まで含めた「実質ギア比」の計算と、ATモデルの年次改良による変遷を知れば、あなたが選ぶべき一台が明確に見えてくるはずです。
・MTの真実: カタログ値は同じでも、タイヤが大きいRFは実質的にギアが重い設定です
・ATの進化: 2018年の改良でギア比が見直され、加速性能が大きく向上しています
・設計の理由: 2.0Lエンジンのトルクを活かし、「大人のGT」として味付けされました
・最大のメリット: 高速道路でのエンジン回転数が低く静かで快適なクルージングが可能です
【事実確認】NDロードスターRFと幌、ギア比は本当に違うのか?
まずは、カタログスペック上の事実関係を整理しましょう。多くの人がここで混乱してしまうのは、「MTは同じに見えるが、ATは違う」という複雑な構成になっているからです。
結論から申し上げます。
MT車は、トランスミッションの変速比も最終減速比も、数値上は完全に同一です。
しかし、AT車は、最終減速比が明確に異なります。
以下の表をご覧ください。これがエンジニアたちが設定した「初期値」です。
| モデル | トランスミッション | 変速比(1速〜6速) | 最終減速比(ファイナル) |
|---|---|---|---|
| 幌(1.5L) | 6MT | 5.087 〜 1.000 | 2.866 |
| RF(2.0L) | 6MT | 5.087 〜 1.000 | 2.866(数値上は同一) |
| 幌(1.5L) | 6AT | 3.538 〜 0.582 | 4.100 |
| RF(2.0L) | 6AT | 3.538 〜 0.582 | 3.583(明確にハイギアード) |
MT車に関しては、「なんだ、やっぱり同じじゃないか」と思われたかもしれません。しかし、ここで思考を止めてはいけません。自動車の駆動力は、トランスミッションだけで決まるものではないからです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: MT検討中の方こそ、「タイヤサイズ」まで含めたトータルな減速比を確認してください。
なぜなら、多くの人が見落としがちですが、タイヤは「最後の減速機」としての役割を果たしているからです。カタログのギア比が同じでも、タイヤ外径が違えば、物理的な駆動力やエンジン回転数は変化します。次章でその「魔法」を解き明かしましょう。
理由1:NDロードスターのタイヤ外径が生む「実質ハイギアード」の魔法

ここからが本題です。カタログのギア比が同じMT車でも、実はRFの方が物理的に「ハイギアード(ロング)」な設定になっています。
その秘密は、タイヤ外径にあります。
NDロードスターという車は、モデルによってタイヤサイズが異なります。
- 幌 (S/S Special Package等): 195/50R16
- RF (全グレード): 205/45R17
このサイズの違いを、外径(直径)に換算してみましょう。
- 幌 (16インチ): 約 601.4 mm
- RF (17インチ): 約 616.3 mm
お気づきでしょうか。RFの方が、タイヤの直径が約15mm大きいのです。
タイヤ外径と総減速比の関係は密接です。タイヤ外径が大きいということは、タイヤが1回転したときに進む距離が長くなることを意味します。これは、自転車のギアを重くした(ハイギアードにした)のと同じ効果を生みます。
計算してみましょう。
外径比率:616.3 ÷ 601.4 ≒ 1.025
つまり、RFは幌に比べて、約2.5%ハイギアード化された状態で走っていることになります。
これが、「カタログ値は同じでも、物理現象としては違う」という事実の正体です。この2.5%の違いが、高速巡航時の回転数をわずかに下げ、RF特有の「ゆとり」を生み出しているのです。
理由2:NDロードスターのATモデルのファイナル変更と「迷走」の歴史

次に、ATモデルに話を移しましょう。こちらはMTとは異なり、最終減速比(ファイナル)そのものが明確に違います。しかも、RFのATモデルには、年次改良によってファイナルが変更されたという重要な歴史があります。
もしあなたが中古のRF(AT)を探しているなら、ここは絶対に読み飛ばさないでください。年式によって、車の性格が全く別物になっているからです。
初期型の苦悩 (2016.12 〜 2018.05)
デビュー当初のRF(AT)の最終減速比は、3.454という極端なハイギアード設定でした。
これは、主に北米市場の燃費規制に対応するため、そして2.0Lエンジンのトルクを信じて「巡航燃費」を最優先した結果です。
しかし、日本のユーザーからは厳しい声が上がりました。
「加速がもっさりしている」
「追い越しでキックダウンばかりして忙しない」
改良後の正解 (2018.06 〜 現在)
マツダのエンジニアたちは、この声に真摯に応えました。2018年の大幅商品改良で、ATの最終減速比を3.583へと変更(ローギアード化)したのです。
年次改良 (2018年) と RF (ATモデル) の関係は、まさに劇的な転換点でした。この変更により、駆動力が増し、アクセル操作に対するレスポンスがリニアになりました。「意のままに操る」というロードスター本来の楽しさが、ATモデルにも戻ってきたのです。
理由3〜5:NDロードスターのエンジニアが込めた「GT」としての設計思想
タイヤ外径の魔法と、ATの改良の歴史。これらを踏まえた上で、なぜマツダはRFを全体的に「ハイギアード(ロング)」な方向に振ったのか。そこには、エンジニアが込めた明確な設計思想があります。
理由3:SKYACTIV-G 2.0のトルク特性
最大の理由はエンジンの違いです。
- 幌 (1.5L): 最大トルク 152Nm / 4500rpm
- RF (2.0L): 最大トルク 205Nm / 4000rpm
SKYACTIV-G 2.0とトルクウェイトレシオの関係を見てみましょう。RFは幌に比べて約1.35倍のトルクを持っています。この圧倒的な「余裕」があるからこそ、ギア比を低く(ハイギアードに)しても、車体を軽々と前に進めることができるのです。幌のように頻繁にシフトチェンジして回転数を保つ必要はありません。
理由4:車重増を「重厚感」へ昇華させる
RFは電動ルーフ機構により、幌モデルより約100kg重くなっています。物理的に「ヒラヒラとした軽快感」では幌に勝てません。
そこで開発陣は、逆転の発想をしました。「軽快さ」ではなく「重厚感・安定感」を伸ばそうと。ハイギアードな設定は、エンジンの回転上昇を穏やかにし、落ち着いた大人の走りを演出します。これはネガティブな妥協ではなく、ポジティブなキャラクター分けなのです。
理由5:北米市場という背景
RFの主戦場は、広大な大陸を移動する北米市場です。何時間も高速道路を走り続ける環境では、加速の鋭さよりも「巡航時の快適性」が求められます。初期型ATの極端な設定も、この背景を知れば合点がいきます。現在の仕様は、その「GT(グランツーリスモ)」的な性格を残しつつ、日本の道路事情にもマッチさせた最適解と言えるでしょう。
【検証】NDロードスターの100km/h巡航時の回転数シミュレーション

最後に、これまでの理論が実際の走行でどう現れるのか、シミュレーションしてみましょう。
高速道路を100km/hで巡航しているとき、エンジンは何回転回っているのか? これが快適性(静粛性)の指標になります。
RF(AT)の1,800rpmという数値は、スポーツカーというより高級セダンの領域です。
幌モデルが2,500rpm以上回して「走っている感」を演出するのに対し、RFは低い回転数で静かに、しかし力強く滑走します。
これが、マツダがRFに与えた「大人のGT」という回答なのです。
NDロードスターRFのギア比に関するよくある質問
ここまで技術的な解説をしてきましたが、まだ購入前の不安が残っているかもしれません。多くのNDオーナーの疑問について、率直にお答えします。
Q: RFのATは「加速が遅い」という噂は本当ですか?
A: 結論から言うと、「年式によります」が正解です。
記事中でも触れましたが、2018年5月以前の初期型(ファイナル3.454)は、確かに加速時のキックダウン頻度が高く、ドライバーの意思と加速感にズレが生じやすい傾向がありました。これを「遅い」「もっさり」と感じる方は少なくありません。
しかし、2018年6月以降の改良型(ファイナル3.583)は、この点が劇的に改善されています。2.0Lエンジンのトルクを活かしつつ、必要な時には鋭く加速するセッティングになっており、現代のスポーツカーとして十分な速さを持っています。ネット上の噂を鵜呑みにせず、検討している車両の「年式」を必ず確認してください。
Q: 峠道を楽しむなら、ギア比的に幌とRFどちらが有利ですか?
A:「楽しさ」の質が異なります。
日本の狭い峠道(低速コーナーが多い道)で、エンジンをブンブン回してギアを頻繁に変える楽しさを求めるなら、幌(1.5L)に軍配が上がります。物理的にローギアード(タイヤ外径が小さい)であり、エンジンも高回転型だからです。
一方で、中高速コーナーが続くようなスカイラインや、登り勾配のきつい峠道では、RF(2.0L)のトルクとハイギアードな設定が活きます。シフトチェンジをサボっても、アクセルひとつでグイグイ登っていく力強さはRFならではの武器です。
「操作する忙しさ」を楽しむなら幌、「余裕のあるライン取り」を楽しむならRF。あなたの好みのドライビングスタイルに合わせて選ぶのが正解です。
結論:そのギア比は「妥協」ではなくNDロードスターの「最適解」である
ここまで、RFと幌のギア比の違いを、物理と数学の側面から解き明かしてきました。
- MT車は、タイヤ外径の違いにより、物理的に2.5%ハイギアードであること。
- AT車は、2018年の改良を経て、加速と巡航のバランスが取れた3.583というファイナルを手に入れたこと。
- そしてそれらはすべて、2.0Lエンジンのトルクを活かした「GT」としてのキャラクターを確立するための必然であったこと。
カタログの数値は、単なる記号ではありません。そこには、エンジニアたちの「どうすればこの車をもっと楽しめるか」という苦悩と情熱が刻まれています。
この数値の意味を理解したあなたなら、もう迷うことはないはずです。
軽快に回して走る幌か、トルクで優雅に流すRFか。あるいは、改良後の完成されたATか。
どのモデルを選んでも、それはマツダが導き出した一つの「正解」です。
自信を持って、あなたに最適な一台を選んでください。その選択は、間違いなく正しいものです。
[参考文献リスト]
- マツダ ロードスター 主要諸元 – マツダ株式会社
- マツダ技報 – マツダ株式会社



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